地方自治体のPRに欠かせない「ゆるキャラ」などのマスコットキャラクター。その着ぐるみを市民に貸し出す際の規定に、現代のジェンダー平等や人権意識と乖離した条件が設けられているケースがあることが、独自調査で分かりました。

全国の自治体等に対し、規定の合理性について照会を行ったところ、即座にルールの見直しを約束する自治体がある一方で、「生物学的な性に基づく制限」を正当化する自治体もあり、行政の対応に大きな格差がある実態が浮き彫りになっています。

◆ 調査の発端

「男性の汗や体臭は取り除けない」 ある自治体の回答

奈良県葛城市 商工観光プロモーション課の回答

「貸出条件でいう『女性』は生物学的な性に基づくものです」

このような回答を寄せたのは奈良県葛城市です。同市はマスコットキャラクター「蓮花ちゃん」の貸出条件として、公式な規定にはない「身長150cm〜160cmの女性に限る」という運用ルールを設けています。

性別を限定する合理的な理由と「女性」の定義について照会したところ、同市は以下のように回答しました。

葛城市 商工観光プロモーション課

「蓮花ちゃん着ぐるみは頻繁にクリーニングできるものではなく、着用中に付く汗や皮脂、体臭を貸出の度に取り除くことができません。貸出条件でいう『女性』は生物学的な性に基づくものです」

性別に基づく偏見とも取れる理由で、公的サービスの利用を「生物学的な性」で制限している実態が明らかになりました。回答の背景にある汗や皮脂についても「同性なら甘受できるだろう」という認識そのものが、一つのバイアスと言えそうです。

◆ 背景

放置されてきた「行政の死角」

着ぐるみは自治体の公的な資産であり、その貸出は地方自治法が定める「公の施設」の利用に準ずる性質を持ちます。同法では、正当な理由がない限り、住民の利用を拒んだり、不当な差別的取り扱いをしたりすることを禁じています。

しかし、着ぐるみの貸出規定は、長年アップデートされず、法的な妥当性や人権意識の検証から漏れてきた「行政の死角」となっていました。今回の調査では、全国6つの自治体・団体に対し、規定に潜む不合理な条件について照会を実施しました。

◆ 調査結果

独自調査:対応が分かれた自治体の実態

調査の結果、自治体からの回答は、大きく3つの姿勢に分かれました。

見直しに言及した自治体

指摘を受け止めた回答を寄せた自治体です。

北海道 西興部村(マニュアルの即日改訂)

同村はマニュアルに「男性が適任」と記載していました。「体格が適合すれば性別を問わないか」と照会したところ、企画総務課は「ご質問の内容については、そのとおりでございます」と即答。さらに、技術的な解決策も提示しました。

西興部村 企画総務課

「昨年度よりエアータイプの着ぐるみも導入しましたので、性別問わず従来のと比べより快適に演者となることが可能になりました。つきましては、ご指摘のあった部分のマニュアルの改訂していきます」

西興部村が挙げたエアータイプの着ぐるみは、ウレタン製のものより涼しく軽いとして、操演者の負担軽減や新たな表現が近年注目されています。

千葉県 旭市:「家族への口外厳禁」…過度な制約を認め見直しへ

同市のイメージアップキャラクター「あさピー」の貸出条件には、「家族・友人への口外厳禁」「控室内での写真撮影厳禁」といった、厳しい秘密保持条項が設けられていました。

市のPRに協力する市民の安全確保や権利擁護の観点から、以下の3点について照会を行いました。

  1. 権利制約の相当性:「家族への口外」まで厳禁とする包括的な禁止条項は、万一の事故や体調不良の際に適切な情報共有を妨げ、安全配慮義務の観点から問題ではないか。
  2. 責任分担の公平性:利用者に破損時の費用負担を求めながら「写真撮影厳禁」とする規定は、貸出時の状態を記録する手段を奪い、利用者が一方的に責任を問われかねない状況を生むのではないか。
  3. 義務と権利の不均衡:無償の市民協力者に対し、プロ以上の厳しい守秘義務と一方的な賠償責任を課す一方で、自己の権利を守る手段を禁じることは不適切ではないか。

これに対し、同市商工観光課は回答を寄せました。厳しい条件の理由については「キャラクターの世界観やイメージ統一のため」と説明。破損時の証拠保全については、貸出・返却時に職員が立ち会い、互いに確認できるフローになっていると実務上の安全網を明かしました。

その上で、市は指摘を受け止め、ルールの見直しを明言しました。

旭市 商工観光課

「注意事項の表現が、過度な制約と受け取られる可能性があった点につきましては、当方としても真摯に受け止めております。今後は、趣旨がより正確に伝わるよう、表現方法や説明の在り方について、検討、見直しを行ってまいります」

市は過度な制約と受け取られる「可能性」という表現に留めていますが、「世界観を守る」という行政側の既成観念が先行するあまり、協力する市民の話す権利や安全への配慮が抜け落ちた表現になっていたことが浮き彫りになりました。

見直しの可能性を認める自治体

滋賀県 近江八幡市:「アクターは原則女性」…衛生面を理由とするも、見直しの重要性を認識

同市のマスコットキャラクター(らんまる君など)の貸出窓口であり、市の指定管理者である近江八幡観光物産協会の貸出規程には、「アクターは、原則女性に限る(信長甲冑は除く)」という性別条項が設けられていました。

公の施設を運営する指定管理者としての公平性の観点から、以下の3点について照会を行いました。

  1. 条件の目的と必要性:性別を限定しなければ達成できない、具体的かつ合理的な理由はあるか。
  2. 「原則」の例外運用:例外が認められる場合の具体的な基準や、過去の実績はあるか。
  3. 指定管理者としての公平性:地方自治法第244条が定める「不当な差別的取扱いの禁止」の趣旨と、性別制限の整合性をどう整理しているか。

同協会は「性別による役割分担を目的としたものではない」と前置きした上で、実務的・安全管理上の理由を以下のように説明しました。

近江八幡観光物産協会

「アクターは動きやすさや安全性を確保する観点から、薄着や下着に近い服装で着用する場合が多くあります。一方で、着ぐるみ本体は素材や内部構造の都合により、使用のたびに、十分な洗濯・消毒を行うことが難しく、衛生管理には一定の制約がございます」

体格の適合性などの物理的制約も勘案し、「心理的負担や衛生面でのリスクを相対的に低減できると考えられる運用」として現行規定を設けていると回答しました。

例外運用については「体格・身長が適合し、安全かつ衛生的に着用できると判断される場合」などは個別に協議し得るとし、公平性についても「特定の性別を排除することを目的としたものではなく、あくまで実務上の基準」と釈明しました。

「衛生面」や「下着に近い服装」を理由に女性を指定する流れは、前述の葛城市と似た構造を持っています。照会時点の貸出規則には操演者の服装についての記述はなく、他自治体ではスポーツインナーの着用推奨が複数見られた一方で、この回答は下着に近い服装を前提としており、管理体制の差が際立っています。

しかし、同協会は特定の性別排除を否定した上で、最後に以下のように結びました。

近江八幡観光物産協会

「今後につきましても、社会状況や運用実績、技術的改善等を踏まえ、必要に応じて規程内容を見直すことは重要であると認識しております」

現状のルールを実務上の理由で擁護しつつも、社会状況の変化や技術の進歩によるアップデートの必要性は認める姿勢を示しました。

制限を続ける自治体

奈良県 葛城市(特定アクターへの配慮を優先)

前述の葛城市は、規定の理由として以下のように説明しています。

葛城市 商工観光プロモーション課

「日頃、蓮花ちゃんとして専属で活動してくださっている女性のアクターさんの活動のしやすさに配慮しています。アクターさんの人材確保も難しく、当方としては、合理性を有するものであると考えています」

専属女性アクターの活動のしやすさに焦点を当て、人材確保の観点からも合理的だと説明しています。行政の公平性や厳格な身長制限の妥当性という観点からの回答は得られませんでした。

国が性同一性障害特例法によって戸籍上の性別変更を認めているなか、公的機関が独自の運用で「生物学的な性」を基準とすることは、法的に認められた個人の権利と矛盾する可能性があります。出生時に割り当てられた性別を「見破ろう」とする行為は「トランスベスティゲーション」と呼ばれ、議論を呼んでいます。市が「生物学的な性」という言葉を選んだことは波紋が広がりそうです。

地方自治法が禁じる「不当な差別的取り扱い」の観点からも、体臭などを理由に特定の性別を一律に排除することが「合理的な理由」によって認められるのか、行政の判断が問われています。

現在、回答を精査中・保留の自治体

以下の自治体に対しても照会を行っており、回答を待っています。

  • 栃木県 日光市:「女性のみ化粧を落とすこと」という規定の合理性と、撮影を禁じながら破損時の費用負担を求める契約の不公平性について。
  • 宮城県 富谷市:マニュアルにおける「女性に限定」という記載と、市が掲げる男女共同参画理念との整合性について。
◆ 考察

求められる「行政のデバッグ(バグ取り)」

今回の調査から、以下の公共的な問題点が浮かび上がりました。

  1. 「衛生」や「イメージ」を盾にした性別排除:ステレオタイプを理由に、公的サービスへの参加機会を性別で奪うことは、現代の行政運営として許容されにくくなっています。制限の理由としてしばしば挙げられる「世界観」という言葉も、法的根拠を重視する行政においてどこまで有効か問われています。
  2. 義務と権利の不均衡:市民に「弁償」や「過度な秘密保持」を強いる一方で、自己防衛のための記録や相談を禁じることは、市民協働のあり方として不公正さが指摘されます。
  3. 機材更新とルールの乖離:西興部村が示したように、エアータイプの導入などで物理的制約は解消されつつあります。技術が進歩しても、ルールだけが旧態依然のまま放置されているのが実態です。

一方で、西興部村や旭市のように、照会をきっかけにルールを見直す柔軟な自治体が存在することも事実です。

北海道大学の山村高淑教授は、2014年の論考(『都市問題』105巻8号)で、ご当地キャラの流行には「擬人化」と、攻撃性を抑制し親近感を抱かせる「幼稚さ(ベビースキーマ)」が深く関わっていると分析しています。自治体がこの「守られるべき可愛さ」という虚構を維持しようとするあまり、協力者であるはずの市民の身体性や権利が、背後に追いやられてきたのではないでしょうか。

キャラクターの世界観を守るという名目のもと、市民を性別や身体条件で選別し、過度な制約を課してきた実態が浮き彫りになりました。今後は、市民参加の公平性を考慮した、行政本来の趣旨に立ち返った舵取りが求められそうです。

こうしたルールに潜む不合理な条件は、内部からは気づきにくいこともあります。市民やメディアがこれを問いかけ、共に修正していく「デバッグ」の作業が、行政システムをアップデートしていくための新たな力になるのかもしれません。

引き続き各自治体の貸出マニュアルや回答を注視し、続報をお伝えします。

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自治体からの回答(原文)

各自治体・団体から寄せられた公式回答の要旨を掲載します。クリックで展開できます。

回答日: 2025年12月24日

Q:マニュアルの「身長170cm~175cm前後の男性が適任」との記載は、あくまで推奨される目安でしょうか。身長や体格が着ぐるみに適合し、安全に活動できる方であれば、性別を問わず演者となることは可能でしょうか。

A:ご質問の内容については、そのとおりでございます。これまで、重量感のある着ぐるみであったことと見た目の関係で適任サイズを記載していましたが、昨年度よりエアータイプの着ぐるみも導入しましたので、性別問わず従来のと比べより快適に演者となることが可能になりました。つきましては、ご指摘のあった部分のマニュアルの改訂していきますのでご活用の際はご確認いただけると幸いです。

回答日: 2025年12月24日

ご指摘いただきました注意事項につきましては、すべて、イメージアップキャラクターである「あさピー」の世界観や、イメージ統一のためのものであり、「着ぐるみの内部に人が入っている」という事実や、演者の存在を前提とした発信が拡散されることを防ぐ意図で設けているものです。決して必要情報の共有を阻害するためのものではございません。

なお、費用負担と証拠保全については、あさピーの貸出時に、着ぐるみをご使用される方に、実際にあさピーの着用方法を説明させていただきながら、貸出をさせていただいております。返却の際も職員と共に格納をしていただき、借用報告書を提出していただくことで、貸出前・貸出後の破損等も互いに確認できるようになっております。

一方で、注意事項の表現が、過度な制約と受け取られる可能性があった点につきましては、当方としても真摯に受け止めております。今後は、趣旨がより正確に伝わるよう、表現方法や説明の在り方について、検討、見直しを行ってまいります。

回答日: 2025年12月23日

1.当該条件の目的および必要性について

本規定は、性別による役割分担を目的としたものではなく、主として以下の実務的・安全管理上の理由から設けているものです。キャラクター着ぐるみは構造上、内部の通気性が十分とは言えず、特に夏季や長時間の使用時には発汗量が多くなります。そのため、アクターは動きやすさや安全性を確保する観点から、薄着や下着に近い服装で着用する場合が多くあります。一方で、着ぐるみ本体は素材や内部構造の都合により、使用のたびに、十分な洗濯・消毒を行うことが難しく、衛生管理には一定の制約がございます。また、各着ぐるみには想定身長・体格があり、内部構造との適合性、安全な視界確保、転倒防止等の観点から、着用可能者が一定程度限定されるという物理的制約もございます。これらの事情を総合的に勘案し、心理的負担や衛生面でのリスクを相対的に低減できると考えられる運用として、現行規定を設けております。

2.「原則」としていることによる例外的運用について

本規定において「原則」としているのは、個別の事情や条件により、例外的な対応が必要となる場合を想定しているためです。例えば、体格・身長が着ぐるみの仕様に適合し、安全かつ衛生的に着用できると判断される場合や、特定のイベント内容等を踏まえ、当協会が適当と認めた場合には、個別に協議のうえ判断することがあり得ます。

3.指定管理者としての公平性について

当協会といたしましては、市の指定管理者として、公の施設の運営にあたり、地方自治法第244条の趣旨を踏まえ、不当な差別的取扱いを行わないことを基本方針としております。本規定は、特定の性別を排除することを目的としたものではなく、あくまで安全管理、衛生管理および円滑な運営を確保するための実務上の基準として設けているものです。今後につきましても、社会状況や運用実績、技術的改善等を踏まえ、必要に応じて規程内容を見直すことは重要であると認識しております。

回答日: 2025年12月24日

蓮花ちゃん着ぐるみは頻繁にクリーニングできるものではなく、着用中に付く汗や皮脂、体臭を貸出の度に取り除くことができません。貸出条件でいう「女性」は生物学的な性に基づくものです。日頃、蓮花ちゃんとして専属で活動してくださっている女性のアクターさんの活動のしやすさに配慮しています。アクターさんの人材確保も難しく、当方としては、合理性を有するものであると考えています。